vol.1
大隅 典子 [大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 形態形成解析分野 教授]

つなげて、ひろげたい。
マイノリティとしての女性研究者の輪。

生き生きとしたロールモデルの姿ほど、若手研究者にとって心強いものはありません。ブログに折々の出来事や思弁を綴る大隅先生。「女性研究者の種々相の一端に触れてもらえたら」。その姿勢はあくまでも自然体です。

父母ともに理系研究者。いつしか自分も歩んでいた研究者の道。

“親の背を見て、子は育つ”といいますが、父母ともに理系の研究者でしたから、理系に進むにあたっての抵抗感や心理的障壁はなかったですね。同性しての母が良きロールモデルだったか? と問われれば、諸手を挙げて「そうです」とは言えないところもありますが(笑)、国際会議や学会に出掛ける姿をみては、父と母が世界の研究ネットワークを構成する一員なのだという尊敬の念が、幼な心にもしっかりと刻まれたように思います。ちなみに父は鯨の生態学者で、母は酵母菌の形態学を研究しており、私はその間の真核生物であるマウスを研究材料としているというわけです。

高校生のころは、「人を助け、癒す」医療従事者に憧れ、大学を選択しましたが、博士課程前期を終えるころには、もっと自由で変化のあるダイナミックな仕事をしたいという思いが募るようになりました。そうして門を叩いたのが基礎研究の分野です。研究者としての道を歩みたいという思いは、実は、ずっと身の内に抱えていたのかもしれませんね。専門は、発生生物学、分子神経科学。そもそもは一個の受精卵からどのように個体が出来上がってくるのか、特に顔や脳の発生について研究していました。その後「脳は胎生期で発達が完了するのではなく、大人になっても脳細胞が分裂し増殖し続ける」という新しい知見を基に、研究フィールドをさらに広げ、神経新生の過程を探究しています。そこでの発見は、ある種の神経疾患の予防や改善につながる可能性を内包し、今、各方面からの注視を集めています。

先達の苦労が沁みこんだバトンをしっかりと次の世代へ。

科学技術は、社会とつながり、何らかの形で人びとの暮らしに生かされてこそ、輝きを増していくのではないでしょうか。現在、私が力を注いでいるアクティビティーに、自分たちの取り組みや研究成果を社会へわかりやすく発信する科学技術コミュニケーションがあります。拠点リーダーを務める「東北大学脳科学グローバルCOE 脳神経科学を社会へ還流する研究教育拠点」では、『脳カフェ』を開催し、研究者・専門家と市民が車座になって、脳科学について自由闊達に語り合う場をつくっています。これは科学技術コミュニケーションの取り組みのひとつにすぎませんが、私が本学のディスティングイッシュト・プロフェッサーに任命されたのも、そうした社会貢献活動を評価され、さらなる働きを期待されてのことなのかもしれません。

女性研究者(特に理系)は、まだまだマイノリティです。科学技術が社会や暮らしのなかで生かされて輝くように、私たち女性研究者も伸びやかに研究に打ち込める環境があって初めて、その持てる力を十分に発揮し、豊かに輝くことができます。制度面やサポート体制など、未だ整えられていない分野に向けては、専門・学理領域を超えて、女性研究者が手を携え、意見を発信していく必要があります。マイノリティでも集まることで、声が遠くまで届くようになります。その折々で「がんばれる人ががんばる」という柔軟性・協調性も大切になってきますね。一方、春秋に富む若手研究者には、生き生きと働くロールモデルの存在が力強い味方となるでしょう。私がブログ(『大隅典子の仙台通信』)やTwitterを通じて、研究・教育活動のみならず、一個人としてのライフスタイルや思索を開示しているのも、女性研究者を知る一助としてほしいからです。こうした開かれた態度、オープンマインドこそが、次代を拓く原動力になると信じています。

私の手の中には、苦労して先鞭をつけてくれた女性研究者たちから託されたズシリと重いバトンがあります。先達のさまざまな想いが託されたこのバトンをしっかりと次の世代に手渡していくことも、私たち世代が帯びる使命であり責任だと思います。

女性が、研究者としての本質と無関係な要因で夢をあきらめることのないように。

profile
大隅典子
[大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 形態形成解析分野 教授]
1988年東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了。歯学博士。1988年同大学歯学部助手、1996年国立精神・神経センター神経研究所室長、1998年より現職。2006年東北大学総長特別補佐(男女共同参画担当)、2008年東北大学ディスティングイッシュト・プロフェッサーに就任。2004年より科学技術振興機構CREST「ニューロン新生の分子基盤と精神機能への影響の解明」研究代表者、2007年より東北大学グローバルCOE「脳神経科学を社会へ還流する研究教育拠点」拠点リーダーを務める。2006年より東北大学女性研究者育成支援推進室副室長として振興調整費による「杜の都女性科学者ハードリング支援事業」を推進、同年、女性研究者育成支援態勢整備の促進に貢献したとして、「ナイスステップな研究者2006」に選定される。


上記インタビュー記事のダウンロードはこちらから

�‚���