vol.2
田中真美 [大学院医工学研究科医工学専攻/大学院工学研究科バイオロボティクス専攻 教授]
ふんわり、さらさら、キュキュッ。
女性研究者ならではの感性が導いた研究成果。
手触りを“感性ワード”で定量評価する触覚感性計測用センサは、企業や研究機関との共同研究のなかで結実したもの。「社会や暮らしの発展・向上と分かちがたく結びつく取り組み」であることが田中先生の研究マインドです。
あわや就職浪人。研究者への道をつないでくれた恩師に感謝。
今思えば、“理系”としての萌芽は、小学生の頃にあったのかもしれません。「どう動いているのだろう」という興味止みがたく、時計などを分解しては成り立ちや仕組みを観察していました。機構を理解する楽しさに目覚めてからは、いろいろなものに手を出し、ついには元に戻せなくなった“犠牲者たち”が家の中にあふれている状況でした(笑)。現在私が、中学や高校で行っている出前授業でも、「分解のススメ」を掲げています。もちろん壊れてもよいものという条件を付け加える必要がありますね。「機械の動き」を理解したいと希求する気持ちと態度。これは理系人に必要とされる資質かもしれません。
“禍福は糾える縄のごとし”、これは私が研究者/大学教員になった経緯を表現するのにぴったりの言葉です。本学の大学院工学研究科修士課程修了後は、就職を希望していましたが、就職活動も上手く行かず、問い合わせても「女性は採っていない」との答え。昨今では、女性であっても採用の壁はないと思いますが、残念なことに15年程前まではそうでもなかったのですね。このままでは路頭に迷う…と困っていたら、指導教官である教授のご配慮により、助手として残ることができました。当初、教授は私が研究者として身を立てていきたいのかどうか、その「本気度」を計りあぐねていたようです。でも、研究と論文執筆に明け暮れる私の姿に思うところがおありになったのでしょうか、「よし、論文博士を最短でとろう」と励ましてくれました。その言葉通り、4年後には博士号を取得することができました。
私の研究成果はどのぐらい社会的・公共的価値があるのか――その答えは間もなく出ました。論文発表を続けるうち、国内外の企業・研究機関から共同研究の話が持ち込まれるようになりました。社会のなかで生かされる道が見えてくると研究への意識・モチベーションがいやがうえにも高まります。共同研究先からのオファーに応える形で推進してきた研究テーマのひとつに「触覚感性計測用センサシステム」があります。これは布や毛髪の風合いや手触りを、しっとり、ふんわり、さらさら、やわらかなどの「感性ワード」で定量的に評価するものです。まさに“人が触感として実感している”ように測るもので、単なる識別装置ではありません。一般的に研究において男女の差はないと思いますが、計測結果を言葉で表現しようという試みは女性的な感性が発揮された例かもしれませんね。
わが子の成育と学生さんの成長に、目を見張る日々。
今は仕事と子育ての両立期です。子を持つ/持たない、の多様性は尊重しなければなりませんが、研究者だから子どもを産み育てるのは難しいという時代ではなくなっていると思います。本学では、出産・育児にかかわる休暇・休業・時短などの各種制度が整えられていますし、事務補佐員や実験補佐員の手当て支援もあります。託児は、川内キャンパスにある学内保育園を利用しているので、時間ギリギリまで研究室にとどまることができます。こうした「職-託児-住」近接というのは、仙台の街が持つメリットかもしれませんね。加えて「子育ての負担はみんなで分かち合う」という社会的な理解が定着していけば、もっと子育てしやすい環境になっていくのではないでしょうか。
私は高校の時、物理が大の苦手科目でした。でも幸いにしてキライではなかったのです。今では、力学の授業を担当していますから、まさに“好きこそ物の上手なれ”といったところでしょうか。日々、学生さんと接していて最も強く願っていることは「好きで打ち込めるものを見つけてほしい」ということです。好きであることの原動力・推進力は、時に思いがけないほど豊かな成果を生むものです。
仕事と子育てで精一杯の毎日。しかし子どもの成育と学生さんの成長、双方に接することができるのは、母として、教育者としての冥利ですね。
研究者だからといって、一女性としての生き方を制限される時代ではありません。
profile 田中真美 [大学院医工学研究科医工学専攻/大学院工学研究科バイオロボティクス専攻 教授] 1995年東北大学大学院工学研究科博士課程前期修了、同年より同大工学部助手、1999年博士号取得(工学)、2000年講師、2001年助教授、2007年准教授、2008年より東北大学大学院医工学研究科(工学研究科兼務)教授。この間、2002年10月から2008年3月まで東京工業大学助教授(准教授)精密工学研究所を併任、2003年11月から10カ月間文部科学省在外研究員としてフランスパリCNAMで過ごす。2000年日本AEM学会論文賞、2001年度日本機械学会奨励賞(研究)、2007年度日本機械学会賞(論文)、2008年度文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。バイオメカトロニクスに興味を持ち、機能性材料を用いた触覚センサシステムの開発や医療福祉に関連するQOLテクノロジー創出の研究を行っている。2009年より東北大学女性研究者育成支援推進室副室長として振興調整費による「杜の都ジャンプアップ事業 for 2013」を推進。 |
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