vol.12
須藤 祐子 [大学院環境科学研究科 環境科学専攻 助教]
1992年栃木県立宇都宮女子高等学校卒業、1996年東北大学工学部機械知能工学科卒業、1998年東北大学大学院工学研究科機械電子工学専攻博士課程前期2年の課程修了、2001年同研究科機械知能工学専攻博士課程後期3年の課程修了。博士(工学)。2001年東北大学大学院工学研究科附属破壊制御システム研究施設リサーチ・アソシエイト(日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業日本学術振興会研究員)、2002年東北大学大学院工学研究科地球工学専攻助手、2003年東北大学大学院環境科学研究科環境科学専攻助手、2007年より現職。「持続可能な水素製造システムとしての地熱エネルギー直接利用のための硫黄有機物の水熱反応に関する研究」でBest Poster Award of Renewable Energy 2006を受賞。

“人類の宿題”持続可能な
社会の構築に向けて、工学的な視座と
知見からアプローチしていきたい。

高温岩体発電システム、坑井掘削、二酸化炭素の地下処理、地熱直接利用技術…と主に地下環境の有効利用を目指した研究に取り組んできた須藤先生。今後はさらに地球環境問題への視座を高め、工学的な見地と手法から貢献できることは何か、探究していきたいと語ります。

須藤先生

文学部か工学部か…。将来の就職を考えての選択は“理系”。

理系か文系か。そのどちらかに強い興味と志向性、適性を有している場合は別にして、高校卒業後の進路を定める上での決意のしどころなのではないでしょうか。私の場合もどちらと峻別できたわけではなく、日本史が好きだったので、史学科などに進んではるか昔の出来事を深く知りたいと考えていましたし、片や学生たちが自作のロボットで競い合う『ロボコン』を観ては、機械工学を勉強したいという夢も募らせていました。でも将来的に“職に就く”ことを熟慮した時、「工学部のほうが食べていけそうだ」と見込みました(笑)。

私が入学した当時、工学部における女子学生の比率は3パーセント。今では漸増傾向にあるようですが、それでも女性の少ない学部であることは変わりません。「男性ばかりの中でたいへんそう」とよく言われますが、逆にマイノリティに対する配慮と遠慮が働くという場面が多かったのです。例えば、私は研究対象として岩石を扱っていたので、重い岩塊を持ったり、大きな機械を使って岩塊から小片に切り出したり削ったりという作業と無縁でいられませんでしたが、指導教員や先輩たちから「大丈夫かな」と心配されていたように思います。そんな時は「私もやりたい」と発して、何でもやらせてもらっていました。力仕事や砂埃にまみれることを厭わずに意欲的に取り組んだ経験は、今の研究を支える礎石になっていると言えます。

そんな私も、今では学生さんを指導する立場になりました。同じ内容をお話しするにも、学生さん同士の気安い言葉のキャッチボールと、教員から発せられた言葉では、受け取られ方が異なります。時にセンシティブな感性を持つ方もいるので、表現には気を遣っています。一方では、何でも気軽に相談できる研究室の雰囲気づくりも大切でしょう。実験や測定で思わしい結果がでない時には、その事実を早めに正直に相談してもらいたいですね。卒業論文や修士論文の締め切りに間に合わない、ということもありますから(笑)。

地球環境も、そして個々人の仕事と生活も、バランスが大切。

今、主に取り組んでいるのは、廃棄物の土木系材料への再利用です。これは、土木・建設工事などに伴い排出される不要物や副産物(土砂等)を処理して、再び利用できるようにする研究です。社会全体で資源を循環させ、環境負荷を低減させていく観点では、喫緊に取り組むべき課題ですが、例えば、何らかの埋設工事で地面を掘り起こした場合、そこを埋め戻すのに掘削土砂を使おうと考えるのが自然な感覚ですが、環境基準や強度基準を満たしていなければ再利用することができません。地盤材料として使えるように処理するにはコストとエネルギーを要するのです。つまり資源循環のために、新たな環境負荷を生むというジレンマが生じます。こうした環境保護のためのリスクや負担を一般の方に発信していくアカウンタビリティーも、私たち研究者に課せられているのではないでしょうか。近年、「持続可能な」という言葉をよく耳にします。環境にやさしい生活でも、経済的な負担、不便や不自由な暮らしを強いられれば、続けていくことはいずれ困難になっていくでしょう。「環境」「「経済」「人間・社会」のバランスのとれた社会の構築が求められる今、工学的な見地と知見から貢献できることは何か、私たち研究者が果たせることは何か、考えていきたいと思います。

持続可能な社会のためにバランスが欠かせないように、ライフとワークの間にもバランスと調和の視点が大切です。仕事に慣れない時期は、夜遅くまで研究室に留まっていたものですが、それではよくないと発心し、学外のセミナーや勉強会に足を運ぶようになりました。今では年齢や職業もさまざまな知己が得られ、人的ネットワークも広がりました。そして「女性同士のお茶会」という新しい楽しみも得ました(笑)。

出会う人や出来事のすべては、私に何かを気づかせてくれるためにやってくる、という考え方を大切にしています。それが自分にとって好ましいものでなくても、しっかりと受け止め、深く思いを致すことのできる私でありたい。そのためにもしなやかで強い心を持つことが必要ですね。


研究内容紹介

[研究内容紹介]
廃棄物を減らし、これらを再資源化する技術は、持続的発展・循環型社会の構築のために必要不可欠です。須藤先生が所属する研究室では、古紙やペーパースラッジ、木材チップ、廃石膏ボード等の廃棄物を地盤材料として有効活用するための技術開発に関する研究、ならびに資源開発・建設施工のゼロエミッションを目指して、廃棄物を再資源化する機械(環境対応建機)とその知能化(環境知能工学)に関する研究を行っています。併せて、繊維質固化処理土工法を用いた自然の地盤環境保全、汚染土壌修復技術などに関する研究にも取り組んでいます。

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