vol.14
有働 恵子 [大学院工学研究科附属 災害制御研究センター 准教授]
1998年3月筑波大学第三学群基礎工学類卒業、2003年3月筑波大学大学院工学研究科構造工学専攻修了、同4月独立行政法人港湾空港技術研究所海洋水工部漂砂研究室研究官、2006年4月東北大学大学院災害制御研究センター助手、2007年4月同センター助教、2010年4月より現職。2001年第56回土木学会年次学術講演会優秀講演者表彰、2008年建設工学奨励金受賞。
思うにまかせないキャリアプラン。
「これからの私は?」難解な問いに、
解を与えるのは自分自身。
職を得るのが困難な時代。研究者とて例外ではありません、と有働先生。
遠く離れた勤務地、家族と離れて暮らすか否か。中間地点の街を拠点としましょう――。
思い切った結論の背景にはロールモデルの存在がありました。
学部適性検査が見抜いた、工学部向きの資質?!
高校生の時は、クラスメートの影響もあって医学部志望。“射程外”だった工学部を意識し始めたのは、学校で受検した学部適性検査から…というと、驚かれる方も多いかもしれません。マーク式でたくさんの設問に答えていった検査の結果は、工学部が断トツの適性スコアを示していました。それが当時の進路決定にどれほどの影響力を及ぼしたのか、はっきりとはわかりませんが、結果としては当たっていたということになるでしょうか。
大学は基礎工学類に進みました。この学類は幅広い研究領域を専攻できるようになっていて、当初は化学系を希望していたのですが、「就職に有利」という情報を聞きつけ「構造系」を選択。学部卒業後は、就職を考えていましたが、その時点で自分のやりたいことが見つからず、大学院へ進学。進路が決まったのは博士修了直前の2月になってから……と、来し方を駆け足で振り返ってみると、能動的で積極的な態度があまり見当たりませんね(笑)。それでも、折々の得難い出会いによって、知らず知らずのうちに研究者の道へと導かれていったように思います。例えば「常識にとらわれずに、本質を見つめること」を教えてくれた師からは、自明を疑うことの大切さ、研究者としての視座を学びました。大学院に進んでから取り組んだ海岸工学は、解を見つけるためのアプローチ・手段から構築していくもので、学究の奥深さ、研究の面白さに目覚めさせてくれました。
研究は、努力した分の等価を、成果として易々と与えてくれるものではありません。時に暗中模索の日々をくぐり抜けなければならない私たちに必要とされるのは、熱意・モチベーションを保ち続けること、忍耐力・胆力を鍛えることです。デッドロックにあたった時、すぐに助けを求めるのではなく、徹底的に考え抜くこと。そこでの葛藤や紆余曲折は、研究の“基礎体力”を向上させてくれます。そして、キャリアの形成において効率一辺倒の最短距離にこだわらないこと。“回り道や寄り道の途中で、大切なものを見つけた”というのは何も物語の中に限ったことではありません。
“現場”に日参。厳しいフィールドワークが育んだ経験知。
職を得ることが困難を伴う時代です。私たち研究者ももちろん例外ではありませんし、キャリアプランも思うように描けないものです。既婚者は、平日は別々に暮らす“週末婚”を選択している方も多いのではないでしょうか。私たち夫婦も一時期、お互いの職場が350kmほど離れていましたが、思い切って中間地点の街に同居することにしました。通勤時間は90分程度要します。それを決断したのは、学生時代に同じような境遇の女性教員(2時間かけて通勤)がいらっしゃったことを思い出したからで、相談したところ「やってみたら? だめだったらやめればいいし。首都圏では2時間通勤は珍しいことではないわよ」と、私たちの背中を押してくれました。経済的、体力的に負担がありましたが、限られた時間の中で集中して仕事をこなすなど、メリハリのきいた生活をおくることができました。また、改めてロールモデルの重要性も実感しました。
大学院修了後に採用された研究所では、海洋観測施設でフィールドワークに明け暮れました。ここには日本一の規模を誇る全長427mの観測用桟橋があり、5m間隔で砕波帯内の観測を行うのが日課だったのです。荒天時でも観測できるのが(風速17m/s以上で中止)、この施設の“売り”で、おかげで自然の脅威を目の当たりにすることができました。退職時には「女性にはこの仕事は無理だと思っていた」と感想を漏らされたのも記憶に鮮やかですが、私としては現場でしか得られない経験知を蓄積できたのが大きな財産。この逸話に限らず、土木は女性研究者の少ない分野であり、無用なプレッシャーを感じることもあります。しかし、私が取り組むべきは、倦まずたゆまず真摯に研究・仕事を続けること。絶え間なく砂浜に打ち続ける波も、磐石を穿つ力を持つのですから。
[研究内容紹介]
有働先生のご専門は、海岸工学。近年、河川や海岸の構造物設置による土砂収支バランスの不均衡や、地球温暖化による気候変動の影響で、海岸(砂浜)の深刻な侵食が懸念されています。とりわけ日本では、人が社会活動を展開する場所が沿岸域(海岸線付近)に集中しており、海岸侵食によって海岸線が後退すると、国土が縮小するだけでなく災害増加の原因にもなります。砂浜侵食のメカニズムを解明し、対策のための技術開発を行うことは喫緊の課題です。また、災害制御研究センターでは、アジア各国からの留学生の受け入れや技術移転など、国際貢献にも積極的に取り組んでいます。
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