vol.18
中野 わかな [流体科学研究所 助教]
1999年3月長野県立長野吉田高等学校卒業、2004年3月東北大学機械航空工学科卒業、2006年3月東北大学大学院機械システムデザイン工学専攻博士前期2年の課程修了、2009年3月 東北大学大学院航空宇宙工学専攻博士後期3年の課程修了、工学博士。2009年4月日本学術振興会特別研究員PD(早稲田大学理工学術院物理学科)、2009年10月 より現職。
研究者として、自分が果たせる
役割とは何か、探し求める日々。
一歩一歩着実に積み重ねたその先に、
きっと未来の私がある。
質問の趣旨を確認し、じっくりと考え、言葉の精度を意識しながらお答えくださる真剣でひたむきな姿に、中野先生の研究者としての個性が現れているようでした。
知らないことを知りたい…知的好奇心を震わせる学びを求めて。
私はもともと数学や物理が得意と感じたことはありませんでした。自然科学に興味と関心を向かわせることになったきっかけは、図書館で見つけた一冊の本。物理的な現象を、難しい数式ではなく、文と挿絵で説明したもので、「不純物のない水は静かに温度を下げて行くと零度になっても凍らない」という事実が記述されていたのです。私は「教科書に載っていることのすべてが、真に正確であるとは限らない」ことに気付かされ、自然現象の奥深さに感動しました。それは「この世界で起こる自然現象の表面を見ていただけだった。もっと勉強してこの世界を支配する物理法則について深く知りたい」と思わせてくれるに十分な刺激だったのです。その本を手に取った理由は、おそらく小学校のときに親しんでいた科学雑誌(ロケットの作り方や細胞の分裂の様子が描かれていた)にあるのかもしれません。私は本や雑誌があれば何でも手に取ってしまうタイプだったので、両親が常に買い置いてくれたのです。科学に対する興味は、その時点から芽生えていたのかもしれません。
確かに私は、それまで見えていなかったものが見えるようになることに喜びを感じるようです。例えば学部生のときに勉強したフーリエ級数。授業ではついていくのが精一杯、数式を追うばかりで意味を深く考えなかったのですが、一般向けの平易な本の中で「フーリエ級数とは『複雑な波は、単純な波のたし合わせでできている』ことを数式で表したもの」と知り、知的好奇心が呼び覚まされました。そんな私は、勉強するのに人よりも多く時間がかかるという自覚があり、就職などはせずに、大学院でじっくり学び研究する進路を選択しました。その延長上に、今の私がいるといえます。
研究も自分自身も「多様性」のなかで進化・深化していく。
私たちの研究は多くの人達に支えられながらの取り組みですが、国内外の学会でその成果を発表し、高く評価されることは、研究に取り組んでいる者として心底うれしいことです。学生時代は、多くの学会発表を経験させて貰いました。深い議論のための語学能力など、不足していると痛感させられる場面もありますが、試行錯誤の日々を重ねつつ、研究者としての歩みをすこしずつ、でも確実に進めています。
一言に研究者といっても、人によって年齢も立場も異なり、考え方や価値観もさまざまです。私は、「一つの研究分野は、多様な価値観を持つ研究者たちが、それぞれに相応しい異なる役割を果たすことで成り立っている」と感じています。現在の私は、この研究の世界で、自分が果たすことのできる役割とは何かを探しています。一つの価値観に縛られることなく、じっくり自分の居場所を確立していきたいと考えています。そして、いつか、人々の知識や暮らしを豊かにすることに関われたらと思っています。
気分転換は、馴染みのカフェにいくこと。場所を変えて、リラックスしながら、論文を読んだり、英会話の学習音源を聴いたりします。最近は、家具や食器などを紹介している雑誌などにも目を通すようにしています。素朴であたたかなものを作ろうとする職人のこだわりの姿勢が、論文や発表資料でいいものを作りたいと思う自分に刺激を与えてくれます。
大学院博士課程を卒業してまだ一年半。今は、目の前にある課題や目標とまっすぐ向い合うことーコツコツと取り組んだその先にどんな道が現れるのか、これからの出会いによってどう変わっていくのか、そうした変容を楽しめる自分でありたいと思っています。
[研究内容紹介]
学部・修士課程では一様流中の流体から発生する渦と音源の研究を、博士課程では超新星爆発において発生する球状衝撃波の研究を行ってきた中野先生が現在取り組んでいるのが、スーパーコンピュータを利用した数値流体計算による流体現象の解析や数値計算法の研究。流動現象は、生物から地球・宇宙スケールの諸現象まで、あらゆる分野に出現します。最近では、高速計算機の飛躍的な発達に伴い、流動現象のコンピュータシミュレーション研究の応用範囲が拡大しており、それらを背景にますます要請の高まるシミュレーション精度の高度化、並びにより複雑な流動現象の解明をめざしています。
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