vol.21
田中 のぞみ [大学院工学研究科 電気・通信工学専攻 助教]
2005年3月 上智大学理工学部物理学科卒業、2007年3月 東北大学工学研究科量子エネルギー工学専攻博士前期2年の課程修了、2008年4月- 2010年3月 日本学術振興会特別研究員、2008年11月- 2009年6月 カリフォルニア大学バークレー校/ローレンス・バークレー国立研究所研究留学、2010年3月 東北大学工学研究科量子エネルギー工学専攻博士後期3年の課程修了、工学博士。2010年4月より現職。2010年12月 石田記念財団平成22年度研究奨励賞受賞。
まわり道、寄り道、途中乗車の人たちにも開かれている。多様なキャリアパスに満ちる社会であって欲しい。
米国に研究留学した折、留年を物ともせず“我が道をゆく”研究者や大学院生たちの姿に驚かれたという田中先生。“個”の生き方を尊重し、多様性を当たり前のものとする文化・土壌に接し、改めて日本という国を考えさせられたといいます。
物理学から工学へ。社会や暮らしにつながる研究を手掛けたい。
今では語学も好きで歴史にも興味がありますが、小学生の頃は国語と社会の教科が大の苦手。理科と算数が大好きでした。すでに高学年では「文系と理科の二者択一なら、私は理系かな」という自覚があったほどで、その延長線上としての将来の夢もはっきりとしていました。ビジョンを描くきっかけを与えてくれたのが、1992年に搭乗科学技術者としてスペースシャトルエンデバーに乗船した日本人宇宙飛行士・毛利衛さんです。これは長じて聞いたことなのですが、毛利さんは核融合炉壁材料の研究にも携わっておられたそうです。科学者/研究者として大気圏の外に飛び出し、宇宙空間で実験に取り組む姿がとても格好良く見え、「研究者」の道を強く印象づけられました。中学・高校も依然として得意科目は数学と理科、大学は迷わず物理学科に進みました。自然界の現象の普遍的法則を探究する物理学は、学問として非常に魅力的でしたが、学年が進むうち、これまでに学んだことを生かし、もっと暮らしや社会に結びつく研究に携わってみたいという思いが強くなりました。新しい分野に飛び込むことをいとわない性格も幸いしたように思います。
最近、テレビのディスプレイを始めとして“プラズマ”という言葉をよく耳にされると思います。プラズマはさまざまな産業分野で応用されていますが、私が取り組んでいるのは、核融合プラズマを加熱するイオン源と高周波源の開発。核融合エネルギー(発電利用)は、資源の枯渇問題を解決する有力候補として知られています。現在、国際熱核融合実験炉ITER(イーター)がフランスのカダラッシュに建設中で、日本・欧州連合(EU)・ロシア・米国・韓国・中国・インド7極の協力・協調によって、巨大科学の研究開発が推進されています。私が携わっている領域は将来、核融合炉を商業的に成立させるために重要なものであり(運転維持に使われるエネルギーよりも、核融合により得られるエネルギーを大きくするためのひとつの技術)、世界をフィールドとするダイナミズムあふれる研究に携われることに、日々大きなやりがいを感じています。
研究に伴う労苦は、達成感・充実感と表裏一体。
本研究科のある先生がおっしゃっていましたが、工学にはソフト系、ハード系があって、私が担っている分野は“超ハード”に属するそうです。確かに実験装置は自作ですし、油まみれの力仕事は当たり前です。しかしそうした労苦は、実は研究者としての喜びと表裏一体。パーツ毎に自ら設計し、出来上がった部品(素材は専門業者が製作)を組み立て、計測器を装備し、電気・ケーブル配線をし……と実験装置を一から構築し、それが正常に動作し、何か新しいことを達成・発見したときのうれしさは、普段の生活ではなかなか味わえないものです。
核融合の分野が、国際協力を前提として進められていることはお話ししましたが、私が、否が応でも“世界”というものを意識させられたのは、修士2年、初めての国際会議に参加した時です。英語でのプレゼンテーションや想定問答など、かなり練習を積んで出掛けたのですが、いざとなったらコミュニケーションはかなり困難が伴いました。これではダメだと一念発起。英語には苦手意識を抱いていたのですが、中・高・大学の間、キライなりにがんばっていたのがよかったようです(笑)。嫌々でも学び、引き出しにしまわれていたものはいつか役立つのだなぁと実感しました。
米国の大学に研究留学した折は、大学院生の多彩さに驚かされました。年齢や国籍も実にさまざま。学部からストレートで入ってきた人もいるし、就職や留学などのギャップイヤーを経て大学院に戻ってきた人もいます。日本ではとかく履歴書の“空白”を嫌う文化や土壌がありますが、もっと柔軟に寛容に、キャリアパスの多様性が受け入れられる研究の場であるべきという思いを強くしました。
若手女性研究者として女子高校生のみなさんと接する機会も多いのですが、彼女たちは少なくとも“女性だから”という文脈の中で、将来を考えたりはしていないように見えます。躊躇なく「やりたいことをやります」という自由で溌剌とした彼女たちの姿に、女性の新しい息吹を感じています。
[研究内容紹介]
「ブラズマ」とは、固体・液体・気体に続く、物質の第四の状態のことをいいます(電離気体)。近年では、原子核融合、プラズマディスプレイ、イオンエンジン、カーボンナノチューブの形成など、さまざまな先進分野で応用されていますが、そもそもは自然界にも存在するもので、雷やオーロラ、そして宇宙の99.9%はプラズマです。田中先生が所属する安藤(晃)研究室では、挙動の解析が非常に難しいとされる高温高密度プラズマを用いた基礎研究、さらに工学応用を目指した研究に取り組んでいます。工学応用の一端としては、短期間で惑星間を航行する宇宙航空用推進機、本文でもご紹介している究極のエネルギー源・核融合炉(発電)、プラズマ中の高エネルギー粒子を利用した有毒物質等の分解や滅菌などが挙げられ、『宇宙・エネルギー・環境』の3つのキーワードを柱に研究を推し進めています。
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