vol.22
千葉 奈津子 [加齢医学研究所 免疫遺伝子制御研究分野 准教授]
1993年3月 東北大学医学部卒業、1993年4月 東北大学大学院医学系研究科入学、1997年3月 東北大学大学院医学系研究科修了、1997年4月 東北大学加齢医学研究所・癌化学療法研究分野(現・臨床腫瘍学分野)・研究員、1998年4月 石巻赤十字病院消化器科・診療医、1999年4月 Research Fellow Department of Pathology, Brigham and Women’s Hospital and Harvard Medical School (Jeffrey D. Parvin研究室)、2002年4月 東北大学医学部附属病院・腫瘍内科・医員、2003年8月 東北大学加齢医学研究所・癌化学療法研究分野(現・臨床腫瘍学分野)・助手、2007年4月より現職、2008年4月 東北大学病院・腫瘍内科兼務。2011年 第4回資生堂女性研究者サイエンスグラント受賞。

多様なロールモデル像を示すことが、
若手研究者をエンカレッジすることにつながっていく。

女性研究者が仕事・研究を継続していく困難さには、女性に求められる社会的・文化的な背景があるのかもしれません、と千葉先生。キャリアの多様性を認め、尊重し合いながらも、がんばりたい人がどんどん挑戦できる社会・環境をつくっていくことが大切なのでは、と続けます。

千葉先生

ずっと働き続けるために…資格のある専門職を目指す。

男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年。現在は女性各人が持てる能力と個性を発揮しやすい職場環境が整備されつつあるようですが、私が将来の進路を強く意識し始めた高校生の頃は、女性が働きやすい社会になるのかどうか、よく分かりませんでした。ずっと働き続けるには、確たる資格を背景とした専門職に就くべきなのでは、と考えるに至りました。

進学したのは医学部。初めは臨床医を目指していましたが、臨床修練で大学病院の各科を回り、先生方の研究内容を伺ううち、研究に対する関心が高まってきました。思えば高校の頃、研究職への漠然とした興味を抱いており、それが学びと経験を重ねていくうちに、自分の中で具体的な形を取り始めたのかもしれません。卒業後はすぐに、加齢医学研究所・癌化学療法研究分野(現・臨床腫瘍学分野)に大学院生として入局しました。その後、現在所属する免疫遺伝子制御研究分野、佐竹正延教授のご指導のもと、白血病関連遺伝子産物(転写因子AML1/Runx1、PEBP2β)の研究で学位を取得しました。

その後、一般病院で勤務をしながら、その頃興味を持ち始めていた分野(遺伝子の不安定性の原因となる細胞周期チェックポイント制御やDNA修復の破綻の機構など)の研究が出来る留学先を探しました。数カ所コンタクトをとりましたが、最終的にはHarvard Medical School, Brigham and Women’s HospitalのDr. Parvinの研究室に受け入れていただくこととなり、3年間、研究を中心とした充実した日々を過ごしました。この時から取り組み始めた癌抑制遺伝子産物BRCA1の機能解析は、現在、私の研究の柱となっています。滞在中は、同時多発テロも起こり、不穏な空気の中で過ごさなくてはならない時期もありましたが、Dr. Parvinとは現在も共同研究させて頂き、また留学中に知り合った研究者たちとは今でも親交があります。研究の成果に加えて、人的ネットワークを構築できたことも、海外留学の大きな財産といえます。

意欲持つ女性が、潜在する能力・個性を発揮できる社会、環境を。

帰国後は、大学病院の腫瘍内科の医師として、金丸龍之介教授、石岡千加史教授のご指導のもと、がんの化学療法の臨床と関連した基礎研究について学び、がん薬物療法専門医も取得させて頂きました。臨床経験を基礎研究に生かす、また基礎研究を臨床研究につなげていくという態度は、医師/研究者が備えるべきものであるとされますが、実際にはそう簡単なことではありません。しかし、臨床の現場に身を置くと、目の前の患者さんに対し、もっと有効な治療法はないものかと思うこともしばしばです。基礎研究が即座に応用局面に入るわけではありませんが、少なくとも必要とされている研究の方向性や問題点などを考える上では非常に重要であり、臨床の視座に立つことの大切さを実感しています。

4年半前から現在の基礎の研究室に異動し、大学院生の教育指導が大きな責務となりました。学生さん達が徐々に、研究内容を理解し、自発・自律的に研究と向かい合うようになり、自分なりの考察や新たな実験計画を述べてくれるようになるといった、成長過程を見届けられるのは教員としての大きな喜びといえるでしょう。

「これからは女性の時代!」と喧伝された1980年代。学生の頃、学内での女性教員も徐々に増えていくのだろうと思っていましたが、教員も研究者も考えていたほどには増加していません。事実、先進国の中でも、日本での科学技術分野における女性研究者の割合は低いものに留まっているとの評価がされています。もちろんそれは残念なことですが、女性が研究を続けていく難しさの背景には、日本の社会的・文化的に期待される女性の有り様が横たわっており、大きな変化は望めないのではないかとも思ってしまいます。しかし、がんばりたい女性研究者の意欲に応えるような環境や支援制度を拡充していく必要があるのではないでしょうか。そしてキャリアの多様性を認め、尊重しあうなかで、一人ひとりがロールモデルとしての自覚をもち、地道に丹念に自分の仕事・研究を究めていくこと――そうした私たちの積み重ねが、後に続く女性研究者をエンカレッジすることに結びついていくのではないかと思っています。


研究内容紹介

[研究内容紹介]
近年、がんの分子レベルでの解明は急速に進み、分子レベルでがんの個性を見極め、治療法を選択する個別化医療の確立が望まれています。千葉先生が取り組むのは、家族性乳癌の原因遺伝子産物であるBRCA1の機能解析です。同研究所、加齢ゲノム制御プロテオーム寄附研究部門の安井明教授との共同研究により、DNA損傷に対する分子の応答をリアルタイムで解析できる実験系を用いて、BRCA1のDNA損傷部位への集積のメカニズムを明らかにし、BRCA1の紫外線損傷への応答に関する研究も行っています。また最近は、BRCA1と相互作用する新規分子の同定に成功し、機能を解析したところ、その新規分子がBRCA1とともに細胞分裂制御において重要な働きをすることを発見しました。
今後はこれまでのBRCA1の研究に加えて、さまざまな腫瘍関連分子に着目した研究を展開し、発がんのメカニズムの解明、治療や予防のための新たな標的分子の探索、放射線や抗がん剤の感受性予測因子の探究など、今後のがん治療において重要となる個別化医療への貢献をめざした研究を展開していきます。

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