vol.25
森山 園子 [大学院情報科学研究科 国際交流推進室 准教授]
2000年3月 東京大学理学部情報科学科卒業、2002年3月 東京大学大学院情報科学研究科修士課程修了、2003年6月 東京大学大学院情報科学研究科博士課程中退、2003年7月 東京大学大学院情報科学研究科助手、2003年10月~2004年2月 スイス連邦工科大学理論計算科学研究所およびオペレーションズリサーチ研究所訪問研究員、2007年12月 東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構特任講師、2010年4月より現職。

仕事と育児をバランスさせるには、
完璧を目指さず、自分なりのベストを見出すこと。

1歳の子供を抱えて、ただいま育児真っ最中。周りの人々の理解と支援・協力に感謝の言葉を紡ぐ森山先生。サポートを求めることに躊躇しないメンタリティーは、多忙を極めるワーキングマザーが最も備えるべき資質なのでは?……実体験からのアドバイスは有益です。

森山先生

多くの“出会い”が与えてくれた導きとチャンスに感謝。

紙と鉛筆でできる仕事を――高校時代、医学部を目指すクラスメートが多い中にあって、私はシンプルな環境で自分の適性と能力を発揮できる仕事への憧れを抱いていました。現在は、それら筆記用具に加えて、計算道具としてのコンピュータが加わりましたが、初志貫徹と申し上げても良いのかもしれませんね。大学院進学以来10年以上の学究生活を通じて、「研究は地図を持たずに探検するようなもの」という感懐を抱いています。しかし折節の邂逅が、迷い多き研究の導きとなり、新局面を展開する機縁となってくれたことも事実です。

大学受験の頃はちょうどIT革命の黎明期。“情報”という世界に未来の胎動を感じ、理学部情報科学科に進学しました。現在の研究の端緒を開いてくれたのは、大学3年時に受講した「離散数学」。幼い頃、子ども向けの数学書で感銘を受けたオイラーの公式に再会し、さらに希求したいという学問的関心が湧き上がってきました。4年次から離散構造研究が盛んな研究室に所属しましたが、研究面での大きな岐路に立ったのが修士2年生の時。指導教官の勧めもあり、修士論文を国際会議に投稿することになりました。幸いにも受理され、当該会議への出席の機会を得、当時私が興味を持ち始めていた離散構造の1つである有向マトロイドの世界的な専門家とお会いすることが叶いました。その後、スイス連邦工科大学にお招きいただいたのも、この出会いが契機となっています。滞在中、とても印象に残ったのが、講義を学部生だけではなく、大学院生、時には教員に近い立場の方も聴講し、質問役を買って出ていた点です。これは学生の理解の助けにもなりますし、何より授業に活気が生まれます。知識知見を自明のものとせず、長じても学ぶことに謙虚に真摯に向かい合う姿勢は素晴らしいと感じました。

研究とは孤高の取り組みです。しかし内的な探究に終始するのではなく、他の専門家や研究者と直にお会いすることも重要です。言葉を交わす中で、頭の中の霧がぱっと晴れ、良好な視程が得られることがあります。もちろん書籍や論文に当たることは基本ですが、さまざまな“出会い”が与えてくれる導きや飛翔のチャンスを見逃してはならないと強く思っています。

職-住-保育所近接。子育てのしやすい環境は仙台ならでは。

現在は、計算幾何の分野で世界的に知られる徳山研究室に所属し、考究を深める傍ら、国際交流推進室のスタッフとして、本研究科の国際化および国際交流に関わる種々の支援に取り組んでいます。世界中から優秀な人材=留学生を募るということはすなわち他大学との国際競争の渦中に飛び込むことになります。しかし大学における研究は教員個人の研究活動の色彩が強く、世界的な研究者を数多く擁する本研究科の特徴は、そのままアピールポイントになっています。

本学へは2010年4月に赴任しましたが、実は出産を翌月に控えた身重の身でした。着任早々の産休取得について研究科の先生方に事前に相談申し上げたところ、私の立場に理解を示して下さり、妊娠期間および産休を安心して過ごすことができました。出産後は育児休暇を取らずに復職。ですが運悪く保育所の常時保育の抽選に漏れ、しばらくの間は一時保育のまま、何とか乗り切りました。その間、保育所の増員が行われたそうで、後期授業開始時からは常時保育で預かっていただく運びとなりました。

正直な心情を吐露すれば、働きながらの子育ては大変です。そしてひとりの人間が持ちうる時間も能力も有限です。完璧ではなく、自分なりのベストを見出すことが必要になるでしょう。初めは戸惑うことも多々ありましたが、子どもも私も成長して(笑)、だんだんリズムがつかめるようになり、コマ切れの時間を思索に充てることもできるようになってきました。自宅-保育所-職場が、近接しているという地理的条件にも助けられています。国内外の出張時には、迷わず東京在住の母と叔母の力を借りています。サポートを求めることを躊躇しないメンタリティーは、ワーキングマザーが最も備えるべき資質かもしれませんね。私の育児奮闘記の一端をお話しさせていただきました。少しでも若手研究者の方の参考となれば幸いです。


研究内容紹介

[研究内容紹介]
「幾何構造を記述する離散構造とは何か?」をテーマに組合せ幾何学の研究に取り組む森山先生。具体的には、点配置や超平面配置といった応用数学や情報工学における代表的な幾何構造を記述する離散構造の解析、現実の様々な問題を定式化する最適化問題に内在する幾何構造に着目した離散的解法の提案等の研究を行っています。また、2010年4月に発足した国際交流推進室に所属し、外国人入学志願者への情報提供、留学生の教育環境の整備と生活支援、教員の国際的な教育・研究の交流支援などを担い、情報科学研究科が目標として掲げる世界トップレベルの研究及び教育の推進に尽力しています。

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