vol.27
星野 由美 [大学院農学研究科 動物生殖科学分野 助教]
2001年3月 茨城大学農学部卒業(農学士)、2003年3月 東北大学大学院農学研究科博士前期課程修了(農学修士)、2006年3月 東北大学大学院博士後期課程修了(農学博士)。大学院在籍中にスウェーデン農科大学獣医学部(2002年5月)、ラキーラ大学医学部(イタリア、2004年9月~12月)に共同研究のため短期留学。2006年 東北大学高度技術経営塾を卒塾(第1期生)。日本学術振興会特別研究、東北大学研究支援員を経て2007年12月より現職。2011年10月よりスタンフォード大学医学部(米国)Visiting Assistant Professorとして研究プロジェクトに参加。2006年5月 日本哺乳動物卵子学会第47回大会学術奨励賞、2010年7月 Society for Reproduction and Fertility 2010 meeting, Best Presentation Award
継続することに価値と意義がある。
経験という名の財産が、未知の分野を開く力に。
ご実家は畜産経営に従事。世界各国から研修生を受け入れていた環境に育ち、将来は農業畜産分野で国際貢献をしたいという志が自然に育まれていったという星野先生。やがて専門分野を磨くために入った研究の道が、究めるべき新しい目標となっていきました。
海外の大学で接した女性研究者の姿に感銘。研究の道に歩みを定める。
若い時に将来の道を考えたり、仕事観を養っていく上で、ロールモデルの存在が大きいといわれますが、私の場合は生育環境が大きく影響しているといえるでしょう。実家は畜産経営に従事していましたが、国際協力に貢献したいという父の意向もあり、毎年海外からの研修生を受け入れていました。途上国だけではなく、デンマーク、オーストラリア、アメリカといったいわゆる畜産先進国からも、日本型経営や営農技術について学ぼうとやってきていました。そんな研修生たちの真摯で熱心な姿に接しているうちに、「私も畜産分野で国際協力にかかわる仕事に就きたい」という目標が自然に涵養されていきました。
大学は農学部へ。学部を卒業したらすぐに畜産関係の海外協力機関に就職することを考えており、業界研究などをしていたのですが「プロフェッショナルとして処遇されるためにも、もっと自身の専門を磨いたほうがいい」というアドバイスを多々耳にしました。私の中で徐々に「研究」に対する意識が高まっていったのですが、4年生になり、研究室に所属して実験に取り組むようになると、その“面白さ”が具体的な感懐として抱かれるようになりました。大学院進学を決めたのは、現在所属する研究室の佐藤(英明)教授の講演を拝聴したのがきっかけです。ぜひ動物生殖科学分野に挑戦したいと研究室の門を叩きました。
大学院に進んだ当初は、初志である「畜産分野での国際貢献」を視野に置いていました。研究を主軸に据える決心を促してくれたのは、修士2年の時、共同研究のために訪問したスウェーデンの大学での体験です。ここではまず女性研究者の数に驚かされたのですが、その上、リーダー的役割を担い、とても自由に生き生きと仕事に取り組んでいました。大きな責任の伴う初めての海外研究滞在で、大丈夫かしらと不安に思ったのも束の間、男性に伍して活躍する女性たちの姿に大いに刺激され、私も自分の研究を究めていこうという決意を新たにしたのでした。
基礎的研究の一方で求められる、応用技術の社会への還元。
私の研究対象である卵子は、ご存知の通り生命現象が始まる源であり、精細胞とともに親から子へと遺伝情報を伝達するための特別な細胞です。次世代の個体は、減数分裂といった体細胞とは異なる未知のメカニズムによって形成されていきます。そのプロセスは非常に複雑であり、研究者の探究心を刺激してやみません。不思議さに魅了される、と表現してもよいかもしれませんね。私たちは卵子の発生・分化、成熟のメカニズムを分子レベルで解明していく一方で、その知見を具体的な技術として農業畜産領域に還元・応用していくことが強く求められます。これは優良家畜を人為的に効率的に生産できる技術ですが、実際に畜産農家で導入されるにはコストや人材等のハードルがあり、難しい側面があります。しかし今は現場での応用が困難であっても、数十年後には不可欠な畜産技術となる可能性があります。長いスパンで考究するという意味では、希少種・貴重種などの遺伝情報の保持(生殖細胞の凍結)、体細胞クローン動物の子孫への影響等も、私たちの研究の視野に入ってきます。
現在の研究は、修士2年から取り組み始めましたが、当時は先達のいない萌芽的なテーマでした。意気揚々と始めたものの、相談する相手もなく、孤独の中で研究に向かい合うしかありませんでした。そして未知の分野に挑む新しい試みは、時にさまざまな評価にさらされることになります。中にはネガティブなものもありますから、精神的なタフさも要求されます。もちろん何か成果を出さなければというプレッシャーとも無縁ではいられません。研究はつらく厳しいものですが、それでも私は継続することに価値と意義がある、そして自分の頭と手を動かして、やり抜いた先にしかチャンスは巡ってこないと考えています。すべての努力が報われるわけではありません。それでも少なくとも“経験は財産”になると思っていますし、失敗を重ねてもなおコツコツと貯めて育んだ経験知が大きな稔り――望むべくはブレークスルー――を生む原動力になってくれると信じています。
[研究内容紹介]
星野先生の専門は、生殖生物学、発生工学、家畜繁殖学。所属する動物生殖科学分野では、〔1〕受精・発生能力の高い卵子の生産システムの確立と次世代の動物発生工学技術(体細胞クローン、テーラーメードES細胞、生殖細胞系列の連続培養)の基盤形成を目指した卵子形成・成熟の分子メカニズムの解明、〔2〕ヒト型臓器や有用物質の生産が可能な遺伝子改変ブタの作製、〔3〕卵胞の発育促進・閉鎖抑制を可能とする新規卵胞発育操作技術の開発、などを研究課題として掲げ、哺乳動物の個体発生や生殖の仕組みを明らかにするとともに、発生と生殖の人為的操作技術を開発し、優良家畜、モデル動物、希少動物の増産や新規動物の作製に貢献することを目的としています。
上記インタビュー記事のダウンロードはこちらから