久我 奈穂子[学際科学フロンティア研究所/薬学研究科 兼任 助教]
桜蔭高等学校 卒業
東京大学薬学部薬科学科 卒業
東京大学大学院薬学系研究科生命薬学専攻博士前期課程 修了
東京大学大学院薬学系研究科 論文博士号(薬科学)
2025年-現在 東北大学 学際科学フロンティア研究所(薬学研究科 兼任)
紫千代萩賞を受賞してのご感想をお願いします。

この度は、栄誉ある「紫千代萩賞」を賜り、誠にありがとうございました。私は修士課程を修了後、製薬会社で9年間創薬研究に携わった後、アカデミアに戻ってまいりました。大学機関での研究のブランクに、当初は不安を感じることもありましたが、ここまで歩んでこられたのは、ひとえに周囲の方々のおかげです。また、東北大学に着任して5年になりますが、2人の子育てをしながら研究を両立できたのも、TUMUG支援をはじめとする本学の温かいサポートがあってこそと、深く実感しております。今後も東北大学の研究者として、研究成果の創出に精進してまいります。
先生のモットーは?
創薬研究ではよく「セレンディピティ」という言葉を耳にします。創薬の成功確率は一般的に3万分の1と非常に低く、奇跡といっても過言ではないのですが、こうした研究の歴史の中には、ふとした偶然が予想外の発見につながった(=セレンディピティ)例があります。抗菌薬ペニシリンもそのひとつです。ただ、それは単なるラッキーではなく、その偶然を生み出す土壌と、見逃さない視点があってこそだと思っています。研究を進めていると、思いもよらない結果に出会うこともありますが、それこそがセレンディピティの入り口かもしれないと思い、「想定外」を楽しむようにしています。こうした積み重ねが、いつか大きな発見につながると信じています。
今後の抱負をお聞かせください。

2025年度より学際科学フロンティア研究所の助教としてご採用いただき、この1~2年で、ようやく自身が本当に取り組みたい研究を実現できる環境が整ってきたと感じています。これまでは、自身の研究を小さくまとめてしまうことも多くありましたが、今後は、脳と身体の相互作用というテーマをより大きな視点で発展させ、国際的にも意義のある研究・論文として発信していきたいと考えています。また、現在は基礎研究が中心ですが、将来的には具体的な創薬研究や治療戦略にもつながる研究へと展開していきたいです。

最後に後輩達に向けたアドバイスやメッセージをお願いします。
私のこれまでの研究人生を振り返ると、そのときは一見意味のないように思えたことが、後々何らかの形で返ってきたり、点と点がつながって大きな意味を持ったりすることが多かったように思います。コスパやタイパが重視される時代ではありますが、あまり目先の損得にとらわれず、自分なりの意義を見出して、全力で楽しんで取り組んでみるのも悪くないと思っています。研究テーマにしても、人との縁にしても、そのめぐり逢いにはきっと意味があり、それが今・これからの自分を支えてくれるはずです。今日の一歩一歩を大切に、進んでいってください。
[研究内容紹介]
情動や記憶などの脳の働きは、近年、脳の活動だけでは説明できず、身体(末梢臓器)の状態にも影響を受けることが明らかになりつつあります。しかし、脳と身体がどのように相互作用して情動や記憶に影響するのか、その仕組みはほとんど分かっていませんでした。私は、自由に動いている動物から、脳と身体(心拍・腸の蠕動運動・血糖値など)の活動を同時に測定・操作できる新しい技術を開発しました。そして、身体の状態が情動や記憶に関わる脳の活動と連動していること、この連動が精神的ストレスによって乱れ、精神疾患の発症の一因になる可能性があることを示してきました。こうした結果は、身体の状態を考慮した、精神疾患の新しい診断・治療法の開発につながると期待されます。
[研究キーワード]脳・末梢連関、情動、記憶、精神的ストレス
