千葉 杏子[学際科学フロンティア研究所 助教]
札幌日本大学高等学校 卒業
北海道大学薬学部薬科学科 卒業
北海道大学大学院生命科学院生命科学専攻修士課程 修了
北海道大学大学院生命科学院生命科学専攻博士後期課程 修了 博士(薬科学)
2021年-現在 東北大学学際科学フロンティア研究所新領域創成研究部
紫千代萩賞を受賞してのご感想をお願いします。

このたびは、紫千代萩賞という名誉ある賞をいただき、大変光栄に思っております。これまで支えてくださった先生方、共同研究者の皆様、そして研究所の皆様に心より感謝申し上げます。長年取り組んできた研究がこのような形で評価され、大きな喜びとともに身の引き締まる思いです。研究の過程では多くの困難にも直面しましたが、積み重ねてきた成果をこうして認めていただけたことは大きな励みとなりました。今後も初心を忘れず、真摯に研究と向き合っていきたいと思います。
先生のモットーは?
「忙しいことに満足しない」
昔、新聞のコラムで読んで印象に残っている言葉です。ある方の回顧録だったと思います。
「忙しくなるのは簡単だ。いつの頃からか、頼まれたことを断らなければ、スケジュールはあっという間に埋まっていくようになった。そして、自分はその限界まで埋まった予定をこなすことに、どこか満足していた。自分はできる限りのことをしているつもりだった。だが今振り返ると、頼まれたことをすべて断ってでも取り組むべき、本当に重要な仕事が他にあった。忙しいことに満足してはいけない。本当に大切なものを見失うな」ーーそうした趣旨の内容でした。私も、何が本当に重要なのかを見極めながら、日々の仕事に取り組んでいきたいと思っています。
今後の抱負をお聞かせください。

今後は、これまで取り組んできたキネシンの研究をさらに発展させ、変異型キネシンによる細胞内輸送の破綻がどのようにして神経細胞の機能喪失につながるのか、そのメカニズムをより多角的に明らかにしていきたいと考えています。また、基礎研究の成果を少しでも疾患の理解や治療法の開発に結びつけるため、臨床研究との連携も視野に入れていきたいと思っています。これからも、モータータンパク質という奥深い分子の謎に迫りながら、研究者として成長していきたいと思います。
最後に後輩達に向けたアドバイスやメッセージをお願いします。

後輩の皆さんへ。研究は、思うようにいかないことの方が多いものです。手を替え品を替え試しても結果が出ない─そんな経験を私も重ねてきました。研究に限らず、日々の生活の中で壁にぶつかることは誰にでもあります。けれど、試行錯誤を重ねる中で必ず道は開けてきます。どうか諦めずに、自分なりの解決法を探してみてください。人生の時間は限られています。得られるものと失うものを冷静に見極め、「今はやめる」という選択も立派な答えです。努力は決して無駄にはなりません。自分の歩みを信じて、前に進んでください。
[研究内容紹介]
私は、細胞内で荷物を運ぶ「キネシン」と呼ばれるモータータンパク質の働きに着目し、その異常がどのようにして神経変性疾患を引き起こすのかを明らかにする研究に取り組んでいます。特に、痙性対麻痺やALSなどの疾患に関連する変異型キネシンの性質を、生化学的・生物物理学的手法を用いて解析してきました。こうした基礎的な知見が、新しい治療戦略の手がかりになることを目指しています。また、キネシンの制御機構にも関心を持っており、タンパク質の構造変化や活性制御の仕組みを解明することにも力を入れています。

[研究キーワード]細胞骨格、モータータンパク質、キネシン、神経変性疾患